
文章力とは何か?書く力を構成する能力と身につけ方
「文章力がある人」と聞くと、どのような人を思い浮かべるでしょうか。
言葉をたくさん知っている人。難しい内容を分かりやすく説明できる人。美しい表現ができる人。あるいは、仕事のメールや報告書を短時間でまとめられる人を思い浮かべるかもしれません。
しかし、これらはすべて同じ能力なのでしょうか。
小説を書くことと、会議の内容を報告書にまとめることでは、求められる文章が異なります。研究論文、ニュース記事、商品説明、手紙でも、それぞれ目的や読み手が違います。それでも私たちは、こうした文章を書く能力をまとめて「文章力」と呼ぶことがあります。
文章を書くという行為を詳しく見ると、そこでは単に言葉を並べているわけではありません。何を書くのかを考え、必要な情報を選び、順番を決め、言葉へ変換し、書いたものを読み直して修正しています。
では、文章力とは何なのでしょうか。文章を書くときに使われる能力を一つずつ見ていくと、「書く力」の正体が少し具体的に見えてきます。
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文章力とは何か
文章力という言葉に、すべての場面で共通する一つの厳密な定義があるわけではありません。一般には、自分の考えや情報を文章として適切に表現し、目的に応じて読み手へ伝える能力を指して使われています。
ここで重要なのは、文章力を「文章をきれいに書く能力」だけに限定しないことです。
たとえば、豊富な語彙を持っていても、何を伝えたいのか整理できていなければ、文章は分かりにくくなります。文法的に正しい文を書けても、必要な情報が抜けていれば、読み手には十分に伝わりません。
反対に、特別に難しい言葉を使っていなくても、必要な情報が整理され、読み手が理解しやすい順番で説明されていれば、十分に優れた文章になることがあります。
つまり文章力は、一つの能力というより、文章を作るために必要な複数の能力が組み合わさったものとして考えたほうが実態に近いでしょう。
文章を書くことは、考えたことを書き写すだけではない
文章を書く過程について、かつては「何を書くか考える」「文章を書く」「書いた文章を直す」という三つの段階が順番に進むものとして捉えられることがありました。
しかし、その後の文章産出研究では、実際の執筆はそれほど単純なものではないと考えられるようになりました。
文章を書いている途中で、新しい考えが浮かぶことがあります。書いた一文を読み返して、最初の構成を変更することもあります。最後まで書いてから冒頭へ戻り、文章全体を書き換えることもあります。
つまり、計画、文章化、読み返し、修正といった作業は、必ずしも一方向に進むわけではありません。書き手はそれらを行き来しながら文章を作っています。
文章を書くことは、頭の中ですでに完成している考えを文字へ移すだけの作業ではありません。書くことそのものを通して考えを整理し、ときには考えそのものを変えながら文章を作る行為でもあります。
何を書くのかを見つける力
文章を書くためには、まず材料が必要です。
しかし、「何について書くのか」というテーマが決まっていても、文章の内容まで自動的に決まるわけではありません。
たとえば「働き方について書いてください」と言われても、労働時間について書くのか、在宅勤務について書くのか、仕事への価値観について書くのかによって、文章はまったく違うものになります。
書き手は、自分の知識や経験、調べた情報などから、テーマに関係する材料を取り出します。その中から、文章の目的に必要なものを選ぶ必要があります。
この段階では、「知識が多いこと」と「文章に必要な情報を選べること」は同じではありません。
多くのことを知っていても、それをすべて書けばよいわけではありません。何を中心にし、何を省き、何を補うのかを判断する必要があります。
文章力の一部には、書くための材料を見つけ、選択する力があります。
考えを整理する力
頭の中にある考えは、最初から文章の形に並んでいるとは限りません。
あるテーマについて考えているときには、経験、知識、疑問、感情、具体例などが同時に浮かぶことがあります。それらには関係があっても、どの順番で説明すればよいのかまでは決まっていません。
文章を書くためには、こうした材料の関係を整理する必要があります。
何が中心的な主張なのか。その理由は何か。どの情報が具体例なのか。どこまでが一つの話題なのか。何を先に説明しなければ次の内容を理解できないのか。
こうした関係を整理することで、頭の中にある複数の情報が文章として並べられる状態になっていきます。
文章を書くのが難しいと感じるとき、言葉が見つからないのではなく、実は「何と何がどう関係しているのか」がまだ整理できていない場合もあります。
その意味では、文章力は言語表現だけでなく、思考を整理する力とも深く関係しています。
文章を構成する力
必要な情報がそろったら、それをどの順番で読み手へ渡すのかを考える必要があります。
これが文章の構成です。
たとえば、ある制度について説明するとします。最初に制度の定義を示すのか、身近な具体例から始めるのか、制度が生まれた背景から説明するのかによって、読み手が受け取る印象や理解のしやすさは変わります。
文章全体だけでなく、一つの段落の中にも構成があります。
最初に中心となる内容を示し、その理由を説明し、具体例を置くこともできます。反対に、具体的な出来事を示してから、そこに共通する意味を説明することもできます。
どちらが正しいというわけではありません。文章の目的や読み手によって、適切な構成は変わります。
重要なのは、書き手が思いついた順番ではなく、読み手が理解できる順番へ情報を並べることです。
考えを言葉へ変える力
何を伝えるのかが決まり、構成もできたとしても、それだけでは文章にはなりません。
頭の中にある内容を、実際の言葉へ変える必要があります。
ここでは、語彙、文法、文の組み立て、語句の選択などが関係します。
たとえば、同じ出来事でも「変更した」「見直した」「修正した」「改めた」では少しずつ意味や印象が異なります。どの言葉を選ぶのかによって、文章が伝える内容は変わります。
また、一つの文にどこまで情報を入れるのか、主語と述語をどのように対応させるのか、修飾語をどこへ置くのかによっても理解しやすさは変化します。
語彙や文法の知識は、ここで重要になります。
ただし、難しい言葉をたくさん知っていることが、そのまま文章力になるわけではありません。重要なのは、伝えたい内容と読み手に応じて、適切な言葉を選べることです。
読み手を想定する力
文章には、書き手だけでなく読み手がいます。
同じ内容でも、小学生へ説明する場合と、その分野の専門家へ説明する場合では、必要な説明が異なります。
専門家には説明しなくても通じる言葉が、初めて学ぶ人には理解できないことがあります。反対に、専門家へ基礎的な説明を長く続ければ、必要以上に冗長な文章になるかもしれません。
文章理解についての研究でも、文章を理解するときには、書かれている情報だけでなく、読み手が持っている知識による推論が関係すると考えられています。
そのため書き手には、「読み手は何を知っているのか」「どこまで説明すれば理解できるのか」を想像することが求められます。
これは単に相手に合わせて言葉を簡単にすることではありません。
何を説明し、何を説明しなくてもよいのか。どの具体例なら伝わるのか。どこで疑問が生まれそうなのか。読み手の立場から文章を見ることも、文章力を構成する重要な能力です。
書いた文章を読む力
文章を書く能力を考えるとき、「読む力」は見落とされやすい要素です。
しかし、文章を完成させるためには、自分が書いた文章を読み返す必要があります。
そのとき重要なのは、自分が「書こうとしたこと」ではなく、実際に「書かれていること」を読むことです。
書き手は、自分の考えを知っています。そのため、文章から説明が抜けていても、頭の中で不足した情報を補いながら読んでしまうことがあります。
また、自分では自然な流れだと思っていても、初めて読む人には話題が突然変わったように見えることがあります。
文章産出に関する研究では、書く過程における「読み」が推敲の質と関係することも指摘されています。文章全体を読み直すことが十分でない場合、焦点の分散や段落内の脱線、語句の反復などが生じることが報告されています。
書く力には、書いたものからいったん離れ、それを文章として読む力も含まれているのです。
問題を見つけて書き直す力
読み返しただけでは、文章は変わりません。
文章の問題を発見し、必要に応じて修正する力も必要です。
推敲研究では、文章の問題を見つけることと、その問題がなぜ生じているのかを診断し、どのように直すのかを考えることは、同じではないと指摘されています。
「何となく読みにくい」と感じるだけなら、問題に気づいている状態です。
そこから、「一つの段落に二つの話題が入っている」「前提となる説明が後から出てくる」「この指示語が何を指しているのか曖昧だ」と原因を特定できれば、具体的な修正が可能になります。
さらに、問題によって修正の大きさも異なります。
単語を一つ変えれば済むこともあれば、段落の順番を入れ替える必要があることもあります。場合によっては、文章の目的そのものを考え直し、大部分を書き直すこともあります。
文章力には、最初から完璧な文章を書く能力だけではなく、書いた文章を改善していく能力も含まれます。
文章力は「速く書けること」なのか
文章を書くのが速い人を見ると、文章力が高いように感じることがあります。
確かに、書くことに慣れることで、文章を組み立てたり、適切な表現を選んだりする作業が速くなることはあります。
しかし、速さだけで文章力を測ることはできません。
短い業務連絡なら、必要な情報をすぐに整理して数分で書けることに価値があります。一方、複雑なテーマを扱う論文や長い記事では、調査や構成、推敲に時間をかける必要があります。
文章を書く目的によって、必要な時間は変わります。
また、書くことに慣れた人ほど、単に最初の文章を速く作るのではなく、必要に応じて計画や推敲の方法を使い分けている場合があります。
文章力とは、速く文字を生み出す能力ではなく、目的に合った文章を作るために必要な過程を適切に進める力だと考えたほうがよいでしょう。
文章力は一つの尺度では測れない
文章を書く能力を複数の要素に分けて考えると、「文章が得意」「文章が苦手」という評価も少し違って見えてきます。
豊富な知識を持っていて、何を書くかはすぐ思いつくものの、構成することが苦手な人もいます。
文章の構成は得意でも、適切な言葉を選ぶことに時間がかかる人もいます。
最初の文章を書くことは速いけれど、読み返して問題を見つけることが苦手な人もいるでしょう。反対に、最初の草稿には時間がかかっても、推敲によって文章を大きく改善できる人もいます。
また、ある種類の文章では優れた能力を発揮しても、別の文章ではうまく書けないことがあります。
小説を書く能力と報告書を書く能力には共通する部分がありますが、まったく同じではありません。文章の目的が変われば、必要な知識や構成、表現も変わります。
文章力を一つの才能として考えるより、「自分は文章を作る過程のどこが得意で、どこに時間がかかるのか」と考えたほうが、改善する場所を見つけやすくなります。
文章力はどうすれば身につくのか
文章力が複数の能力から成り立っているなら、その身につけ方も一つではありません。
まず、読むことがあります。
さまざまな文章を読むことで、語彙や表現だけでなく、「この種類の文章ではどのように説明するのか」「どの順番で情報を提示するのか」といった文章の型や構造に触れることができます。
次に、実際に書くことがあります。
頭の中で文章について理解していても、書いてみると、考えを整理できない場所や説明できない部分が現れます。文章を書く経験そのものによって、自分がどこで困るのかを知ることができます。
そして、書いた文章を読み返すことが重要です。
書いて終わりにするのではなく、「何が分かりにくいのか」「なぜ分かりにくいのか」「どう直せばよいのか」と考えることで、文章を見る視点が育っていきます。
他者から文章について指摘を受けることも役立ちます。自分では当然だと思っていた説明が他者には伝わらなかった経験は、読み手と書き手の間にある情報の差を知る機会になります。
また、他者の文章を推敲することが、自分の文章を見直す視点につながる可能性を示した研究もあります。
文章力を身につけることは、優れた言い回しを暗記することではありません。書き、読み、問題を見つけ、直すという経験を重ねながら、文章を作る複数の能力を育てていくことだと考えられます。
文章支援ツールは文章力の代わりになるのか
現在では、文章を書くときにさまざまなデジタルツールを利用できます。
誤字や表記の揺れを検出するもの、文章の読みやすさを確認するもの、表現の問題を指摘するものなど、文章制作を支援する機能は広がっています。
こうしたツールは、書き手が見落とした可能性のある箇所を発見するうえで役立ちます。長い文章の中から一定のパターンを探すような作業は、機械的な確認と相性がよい部分でもあります。
しかし、ツールが指摘した箇所をすべて変更すれば、必ずよい文章になるわけではありません。
その表現を本当に変える必要があるのか。文章の目的に合っているのか。読み手にとって必要な説明なのか。あえてその言葉を使っているのか。最終的な判断には、文章全体の文脈を見る必要があります。
文章支援ツールは、文章力そのものを置き換えるものというより、書き手が文章を見るための視点を増やす道具として利用できます。
指摘された理由を考え、自分で採用するかどうかを判断する。その使い方であれば、ツールを利用すること自体が文章について考える機会にもなります。
こうした文章の見直しを支援するツールの一つに「文賢」があります。文賢は、AIと独自のアルゴリズムを活用して、文章の校正や推敲を支援するクラウドツールです。
誤字脱字や不自然な表現、表記揺れ、読みやすさなどを確認するAIアシストに加えて、独自のルールによる校正・推敲機能も備えています。自分で書いた文章を読み返す際に、見落としていた可能性のある箇所へ気づくための補助として利用できます。
ただし、文賢が文章力そのものの代わりになるわけではありません。どの指摘を採用するのか、文章の目的や読み手に対してどの表現が適切なのかを判断するのは、最終的には書き手です。文賢も、文章中のすべての間違いを正確にもれなく指摘するものではないと公式に案内しています。
その意味では、文章を自動的に完成させてもらうためではなく、自分の文章を別の視点から見直すための支援ツールとして使うことができます。
→ あなたの文章をもっと読みやすく。文章作成アドバイスツール【文賢】
文章力とは、書きながら調整する力でもある
文章力について考えると、「最初からうまい文章を書ける人」を想像しやすいかもしれません。
しかし、文章を書く実際の過程を見ると、完成した文章だけからは見えない多くの作業があります。
書く前に考える。書きながら構成を変える。適切な言葉を探す。途中まで書いたものを読む。伝わらない部分を見つける。削る。追加する。順番を入れ替える。
完成した文章は、こうした判断の積み重ねによって作られています。
その意味では、文章力とは「一度で正しい文章を書く力」ではありません。
目的、読み手、内容を見ながら、文章を作る過程を調整し続ける力でもあります。
まとめ
文章力とは、単に語彙が豊富であることや、美しい表現ができることだけを意味するものではありません。
何を書くのかを見つける。情報や考えを整理する。文章を構成する。考えを言葉へ変える。読み手を想定する。自分の文章を読み、問題を発見し、必要に応じて書き直す。
文章を書くという行為には、こうした複数の能力が関係しています。
そして、それぞれの能力には個人差があります。文章がうまく書けないと感じるときも、「文章力がない」と一つの言葉で片づけるのではなく、文章を作る過程のどこで難しさが生じているのかを見ることができます。
文章力を身につける方法も、一つではありません。読むこと、書くこと、読み返すこと、他者の文章を見ること、他者から反応を受けること。こうした経験を通して、文章を見る視点そのものを増やしていくことができます。
文章は、頭の中に完成しているものをそのまま文字へ移すだけではありません。書くことで考え、読み返すことで気づき、直すことで伝わる形へ近づけていく。その一連の過程を扱う力まで含めて考えると、「文章力」という言葉が指しているものを、より具体的に捉えられるようになります。
参考資料
柏崎秀子(2010)「文章の理解・産出の認知過程を踏まえた教育ヘ――伝達目的での読解と作文の実験とともに――」『日本語教育』146巻 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihongokyoiku/146/0/146_34/_article/-char/ja/
伊東昌子(1994)「文章の推敲における認知過程とその支援システム」『認知科学』1巻1号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/1/1/1_1_1_121/_article/-char/ja
大澤真也・太田垣正義(2001)「『読み』が文章産出過程に及ぼす影響――『読み』と推敲のつながりから」『ARELE』12巻 https://www.jstage.jst.go.jp/article/arele/12/0/12_KJ00007108306/_article/-char/ja/
佐藤浩一・大濱望美(2015)「説明文の産出における推敲の視点」日本認知心理学会第13回大会 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cogpsy/2015/0/2015_118/_article/-char/ja/