Language

言語

言語とは何か?人間はなぜ言葉を使うのか

私たちは毎日のように言葉を使っています。

誰かと話す。メッセージを送る。本を読む。頭の中で考える。名前を呼ぶ。過去の出来事を説明し、まだ起きていない未来について語る。

あまりにも身近にあるため、普段は「言語とは何か」と考えることはほとんどありません。しかし、人間という存在を理解しようとすると、言語は避けて通ることのできないテーマの一つです。

人間は言葉によって情報を伝えるだけではありません。目の前に存在しないものについて話し、経験を記録し、知識を世代から世代へ受け渡し、ときには現実には存在しないものまで言葉によって表現します。

では、そもそも言語とは何なのでしょうか。そして、動物にもさまざまなコミュニケーションがあるなかで、人間の言語にはどのような特徴があるのでしょうか。

 

言語とは何か

言語を簡単に表現するなら、一定の規則にもとづいて記号を組み合わせ、意味を伝えるための体系と考えることができます。

ここでいう「記号」は、文字だけを意味するものではありません。話し言葉で使われる音も、手話で使われる手や身体の動きも、意味を伝える記号として機能します。

たとえば「木」という音や文字そのものが、現実の木に似ているわけではありません。それでも日本語を共有している人同士では、「木」という記号からある対象や概念を思い浮かべることができます。

このように、言語では一定の共同体のなかで共有された記号と意味との対応関係が使われています。

さらに重要なのは、それらの記号を組み合わせられることです。

「鳥」「空」「飛ぶ」という語を一定の規則にしたがって組み合わせれば、「鳥が空を飛ぶ」という一つの出来事を表現できます。単語を別の単語と組み合わせ、文を作り、その文をさらに組み合わせることで、人間は非常に多様な内容を表現できます。

限られた要素から膨大な表現を生み出せることは、人間の言語が持つ重要な特徴の一つです。

 

言語は「話すこと」だけではない

言語というと、声を使って話すことを思い浮かべるかもしれません。しかし、言語と音声は同じものではありません。

そのことを明確に示しているのが手話です。

自然言語として成立している手話には語彙や文法があり、手の形や位置、動き、表情などを用いて複雑な内容を表現できます。音声を使わなくても、人間は十分に豊かな言語体系を成立させることができます。

また、実際の対面コミュニケーションでは、話し言葉だけが単独で使われているわけでもありません。

声の調子、表情、視線、姿勢、身振りなど、複数の情報が同時にやり取りされています。近年の言語研究では、こうした人間のコミュニケーションを、音声だけではなく複数の伝達手段が組み合わされた「マルチモーダル」な現象として捉える研究も行われています。

私たちは言葉だけでコミュニケーションしているように見えて、実際には身体全体を使って意味を伝え合っているのです。

 

動物のコミュニケーションと言語は何が違うのか

もちろん、人間だけが他者と情報をやり取りしているわけではありません。

鳥は鳴き声を使い、霊長類は声や表情、身振りなどを使います。危険を知らせたり、仲間を呼んだり、食物や自分の状態に関する情報を伝えたりする動物もいます。

そのため、「コミュニケーションをすること」そのものを人間だけの特徴と考えることはできません。

一方、人間の言語には、他の動物のコミュニケーションでは同じ規模では確認されていない特徴があります。

その一つが、限られた要素を組み合わせて新しい表現を次々に生み出せることです。

私たちは、生まれてから一度も聞いたことのない文章を理解できます。そして、これまで誰も発したことのない文章をその場で作ることもできます。

もう一つの特徴は、現在その場に存在しないものについて語れることです。

昨日の出来事について話す。来年の計画を立てる。遠い国について説明する。古代の社会を想像する。さらには、存在しない架空の世界について物語を作ることさえできます。

言語学では、このように「いま・ここ」を離れた対象について表現できる性質を、一般に「転位(displacement)」と呼びます。

ただし、人間と動物の間に単純な一本の境界線を引けば済むわけではありません。霊長類の身振りや動物の発声にも、意図性や柔軟性など、人間のコミュニケーションにつながる特徴が研究されています。

現在の研究では、「動物にはコミュニケーションがなく、人間だけが突然言語を持った」と考えるよりも、さまざまなコミュニケーション能力の進化の上に、人間の言語が成立してきた可能性を検討することが重要になっています。

 

人間の言語はどこから生まれたのか

では、人間はいつ、どのようにして言語を使うようになったのでしょうか。

これは非常に興味深い問いですが、現在も明確な答えは出ていません。

大きな理由の一つは、言葉そのものが化石として残らないことです。

骨や石器であれば、考古学的な証拠を調べることができます。しかし、何十万年も前の人類がどのような音を発し、どのような身振りを使い、それがどの程度体系化されていたのかを直接観察することはできません。

そのため言語の起源については、化石、人類の身体構造、脳、遺伝学、霊長類研究、考古学、現代の言語など、さまざまな証拠を組み合わせながら研究が続けられています。

そのなかには、言語の起源を身振りから考える仮説があります。

人間に近い霊長類が比較的柔軟な身振りを用いることや、人間の幼児も話し始める前から指差しなどによって他者と意味を共有することなどから、音声言語より前に身振りを中心としたコミュニケーションが発達していたのではないか、という考え方です。

一方で、音声と身振りのどちらか一方が先だったと考える必要はないという議論もあります。

現代の人間のコミュニケーションそのものが、声、身振り、表情、視線などを組み合わせたものだからです。言語の進化についても、複数の伝達手段が相互に関係しながら発達したと考える「マルチモーダル」な見方があります。

したがって、「人間はなぜ言葉を使うようになったのか」という問いに、現在の研究から一つの物語だけを答えとして提示することはできません。

言語の起源は、今なお研究が続いている問題なのです。

 

言語は一人では成立しない

言語には、もう一つ重要な特徴があります。

それは、基本的に他者との共有によって成立しているということです。

自分だけが知っている音に、自分だけの意味を与えることはできます。しかし、その対応関係を他者が知らなければ、通常の意味での言語としてコミュニケーションに使うことはできません。

日本語を使えるのは、「犬」「水」「明日」といった語の意味や、それらをどのように組み合わせるかについて、話者のあいだに一定の共有があるからです。

そして、その共有は固定されたものでもありません。

新しい言葉が生まれ、古い言葉が使われなくなり、同じ言葉の意味が時代とともに変化することがあります。地域によって発音や語彙が異なることもあれば、世代や集団によって異なる表現が使われることもあります。

つまり言語は、個人が頭の中に持っている能力であると同時に、人と人とのあいだで共有され、受け継がれ、変化していく社会的・文化的な体系でもあります。

 

言葉によって、経験を残すことができる

言語が人間にもたらした大きな可能性の一つが、経験や知識を他者へ伝えられることです。

自分が経験していない出来事でも、誰かから話を聞くことで知ることができます。

さらに文字が生まれると、情報をその場にいる人だけでなく、遠く離れた人や、まだ生まれていない未来の人へ伝えることも可能になりました。

歴史、法律、宗教、文学、哲学、科学。人類が長い時間をかけて築いてきた知識や文化の多くは、言語を通して蓄積されてきました。

一人の人間が一生のうちに経験できることには限界があります。しかし言語があれば、他者の経験から学び、過去の世代が残した知識の上から考え始めることができます。

言語は単に「自分の考えを伝える道具」ではありません。

人間が経験を共有し、知識を蓄積し、それを次の世代へ渡していくための基盤でもあるのです。

 

では、言葉がなければ考えることはできないのか

ここまで見てくると、さらに一つの疑問が生まれます。

私たちは言葉を使って他者とコミュニケーションしていますが、同時に、頭の中でも言葉を使っていることがあります。

予定を考えるとき、自分の気持ちを整理するとき、何かについて悩むとき。心の中で文章のようなものが流れていることは珍しくありません。

では、人間の「思考」と「言語」は、どのような関係にあるのでしょうか。

言葉があるから考えられるのでしょうか。それとも、言葉になる以前の思考があり、それを言語によって表現しているのでしょうか。

この問題は、言語学だけでなく、心理学、認知科学、哲学などでも長く議論されてきました。

言語を理解することは、単に言葉の仕組みを知ることだけではありません。人間が世界をどのように捉え、どのように考えているのかという問題にもつながっていきます。

 

まとめ

言語は、一定の規則にもとづいて記号を組み合わせ、意味を伝えるための体系です。

しかし、その役割は単純な情報伝達だけではありません。

人間は言語によって、目の前にないものを語り、新しい表現を生み出し、経験を共有し、知識を蓄積してきました。そして言語そのものも、人と人とのあいだで受け継がれながら、時代や社会とともに変化しています。

一方、その起源については現在も多くのことがわかっていません。音声、身振り、表情などを含む人間のコミュニケーションが、進化の過程でどのように現在の言語へつながったのかについては、複数の仮説が研究されています。

私たちが当たり前のように使っている言葉は、人間という存在の非常に深い部分と結びついています。

そして言語について考えていくと、やがて「言葉と思考はどのような関係にあるのか」という、もう一つの大きな問いへ行き着きます。

 

参考資料


Encyclopaedia Britannica, Language https://www.britannica.com/topic/language
Encyclopaedia Britannica, Linguistics https://www.britannica.com/science/linguistics
The Linguistic Society of America, What is Language? https://www.lsadc.org/about-linguistics/what-is-language
Hauser, M. D., Chomsky, N. & Fitch, W. T. (2002), The Faculty of Language: What Is It, Who Has It, and How Did It Evolve?, Science https://www.science.org/doi/10.1126/science.298.5598.1569
Fitch, W. T. (2010), The Evolution of Language, Cambridge University Press https://www.cambridge.org/core/books/evolution-of-language/8F24C4B4DBEE0DF1A0A2E047C69E39A7

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